太宰治、言わずと知れた文豪である。こんなことを書くと袋叩きにされそうだが、私はこの年(三十路前後とだけ)になるまで太宰治の作品をまともに読んだことはなかった。もちろん名は知っていた。だが、恥ずかしいことに「どんな人?」と説明を問われると「自殺未遂を繰り返した末に亡くなった人」程度の答えしか返せなかった。
太宰治と学生時代のわたし
太宰治とはとにかく縁が無かった
と、しか言いようがない。太宰に関しては冗談抜きにすり抜けてきた感がすごい。幸か不幸か、小中高と私は太宰治の作品に一切、触れずに過ごしてきたのである。教科書の選定に嫌われ続けてきたのか、はたまたまるっきり覚えていないだけなのか。
だが、いくらなんでも覚えていないには無理がある。芥川龍之介、志賀直哉、武者小路実篤、森鴎外……作品名だけで言えば手袋を買いに、やまなしに……とそこそこ覚えている。太宰治だけを忘れるワケがない(と信じたい)
ただ、ひとつだけ。小学二年生の時に太宰治との接点があった。学校に劇団が来て『走れメロス』を演じたのである。その頃は太宰治のことなど露知らず、何の感情もなしに劇を見ていたが強烈に残っているシーンがある。いわゆる「走れ、メロス!」の部分である。詳細は覚えていないが、劇の最中にもよおし、こっそりと外に出てすませてこようと先生に断りを入れ体育館の扉を開けようとした瞬間のことである。自動的にバンと扉が開かれ「走れ、メロス!」のナレーションの掛け声と共にガタイの良いお兄さんが、私の目の前でステージに向かって走っていたのである。私の心臓が飛び出るかと思った。今でもそのシーンは強烈に脳裏に残っている。幼女の目の前で想像だにもしてなかったことが起きたのだ。忘れるなという方が無理がある。
太宰治に意地でも触れなかったが某ゲームにて転がった
それでも触れようと思えば触れられただろう。だが、当時の私は学校が嫌いだった。ついでに言えば先生が嫌いだった。集団行動なにそれ。誰ともつるまず一人で行動した方がいかに効率的で有意義か! 語らずとも何処かハズれた子であったことはご理解頂けるであろう。言い訳がましいがこれでも一応、優等生の部類ではあった。
そんなこんなで教科書に載っている人=偉い人の図式が出来上がり、敬遠していた。もったいない。今、学生時代の私にタイムマシーンに乗って出会うことがあれば「読め」と強く勧めただろう。だが、今思うとこうも考えられるのだ。学生時代の私は太宰治と会わずして出会わなかった。あの時は出会うべき時ではなかったのではないか、と。
そう思ったのは某DMMの文豪ゲームにハマり太宰治に興味を持ち(私は腐女子だ)、人間失格を読んだ時のことだ。一言で言おう、とてつもなく共感した。こんなにもぐちゃぐちゃした言い訳のつかない衝動かつ感情的な思考を持っている人間が自分以外にも居たのだと激しく共感した。
同時に唐突に理解した。学生時代の私がコレを読んでいたら、それこそ共感以上に共感し太宰治に同調していた可能性があった。太宰治自身がタラしであったことは有名だが手ずから執筆した文章までタラしだったとは。すさまじい。これぞ、天性のタラしである。
第一の手記
恥の多い生涯を送って来ました。
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。(人間失格/太宰治)
引用元:https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/301_14912.html(青空文庫)
太宰治と二児ママとしての付き合い方
太宰治は女の子にこそ読んで貰いたい
ここでちょっと話を切り替える。私は二児のママだ。太宰治の作品を子供に読ませたいかと問われたならやや首を傾げる。多少の選別は必要だろう。また、うちの子は二人とも男の子だ。どちらかと言うと女の子に読んで貰いたい。
オススメは乙女の本棚シリーズの「葉桜と魔笛」だ。重い病の妹とそれを気遣う姉に起きた奇跡をミステリアスに物語る姉妹の話なのだが、とにかく美しい。太宰治の繊細な文章に、寄り添うカタチで色彩豊かに描かれている紗久楽さわの挿し絵。一瞬にして世界に引き込まれる。少し残念なのが、漢字へのフリガナが少ない点だ。これさえしっかりしていれば低学年の姪っ子へのプレゼントにしていただろう。高学年過ぎたあたりなら問題なく読める内容なので、その年頃の女の子へのプレゼントには最適だ。
乙女な大人にも勿論オススメである。実際に買って読んだが、幼少期にあつめ詰め込んだ宝物を大人になってから開き、ひとつひとつを指先で拾い上げ、愛おしく眺めるような心持ちになる。本を開く指先が思わず柔らかになり、何処までも大切にしたくなる絵本である。ヤンチャな子供を怒鳴り散らし、荒んだママの心を癒してくれる一品に違いない。
太宰治は短編もオススメだ
私も実際に太宰治の作品に触れるまで知らなかったが、太宰治の作品は短編も多い。読みやすいのは「畜犬談」「駈込み訴え」「桜桃」あたりだろうか。仮名遣いが少々ひっかかるかもしれないが比較的テンポよく読める。この辺が詰め込まれた太宰治の名作選が角川つばさ文庫から出版されているので子供の読書感想文用にどうだろうか。
角川つばさ文庫で良いなと思ったのは「解説」の部分でさらっと太宰治の人なりに触れているところだ。さすがに「天性のタラしだ!」とは書いてないが(当たり前だ)、太宰治という人間が名作選から読み取れるだけの人間ではないことを仄めかしている。模範的な教科書にはない良さだと思う。是非、解説までを含めて子供に読んでみてはと薦めたい。
さいごに
私が言うまでもなく太宰治は有名な文豪だ。だが、もしも私なんぞの記事を読んで興味を持った! という方が居たのなら是非、彼に触れてほしい。太宰治の作品は青空文庫で手軽に読める。青空文庫はインターネット上の図書館で無料で利用できる。スマホ用のアプリも数多にあるので機会があったらインストールして欲しい。
そして文豪沼に堕ちるといい(最後に腐女子の本音)
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